人気ブログランキング | 話題のタグを見る

【読後感】 公共事業と環境問題

公共事業と環境問題 小林 好宏 / 中央経済社

いただきものです。なにかのセミナーで。公共事業を生業とする当社にとっては必読書といえるタイトルです。
著者は札幌生れの北大出身、北大教授を経て札大教授。北海道の課題に造詣の深い先生といえます。経済学がご専門。したがってタイトルに沿って「公共事業」も「環境問題」も経済学的見地で説いていきます。

著者は、開発支持者ではありません。しかし公共事業を絶対悪とする昨今の風潮には警鐘を鳴らしています。ヒトが採取狩猟の営みから、農地を切り拓いて作物を植えるようになったこと自体が開発行為であり、公共事業の評価も現在の価値観と将来のそれとでは異なるであろうことを前提に考えねばならないとのスタンスに立っています。そこには市場性があるや無しや、という都市住民と地域住民の温度差にも発展します。

…といったところから数式でそれを解説してくださるのですが、この辺は飛ばし読み。言いたいことはわかっているのに、数式にすると伝わらないのが経済学の奥深さです。

環境評価の章では方法論としてCVM(仮想市場評価法)なども紹介しています。大学院時、農業用水の地域用水としての活用についてをテーマに修士論文に取り組みましたが、その際に検討した手法です。ちょうど農業経済の講座にCVMについて詳しく研究されている先生がいらっしゃったのですが、教えを乞う以前に統計的処理でつまづき、断念したものです。

本書は切口が経済学ですから、環境もプラスマイナスで考えます。国内なら北海道の自然を東京都民が自分たちの持ち得ないものとして評価します。これが地球規模になると、有為な北海道の木材も、安価な海外材木に圧倒されてしまいます。しかし海外材が安いのは、安い労賃が貢献しており、海外資本が伐採に乗り出している点も見逃せません。となれば、乱伐された熱帯雨林が吸収すべきCO2は国際的にどこで処理すべきか、金で解決するのか、政策で規制をかけるのか。

事例として千歳川放水路や釧路川の蛇行復元などが取り上げられています。都市計画の話題では札幌市民にとって馴染み深い円山地区の高層マンション問題も。道民には身近に感じられる本です。
 
by top_of_kaisya | 2006-11-20 23:59 | 読/見/観