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【読後感】 1968年

1968年 すが(糸偏に圭) 秀実 / ちくま新書

以前に「1985年」なる軟らかい新書を読んだものだから、そのノリで読めるかと。85年が高校2年という多感だか何も考えていないんだかわからない時期だったのに対し、68年といえば生まれた年。何もわからないけど生きていた年なので、60年代後半だの70年代前半だの、物心がつく前の日本には関心があります。
先月発行されたばかりの新刊ですが、図書館では早速用意されていました。

新書にしては厚めの300頁。でも大半は著者の、溢れる知識がずらずらと並べられている字面を読まされている気分。
まえがきはよかったのです。この時代に活躍した団塊の世代が大量定年退職を迎えるという時期に、あえて「団塊」にこだわった記述はしないという姿勢が見えました。でも9割方読んだ辺りで疲労感を覚えたのは、「団塊」に触れずに書き進められたのも要因のひとつかと。
昭和30年代を懐古的に振り返る風潮を「それだけだったのだろうか」と68年にあてはめた辺りにも共感が残っていました。当時、保守政策を進めた御仁が現在を「知らないうちにすべてが左翼的になっている」と驚いているエピソードも面白いものです。なるほど当時左翼系の論客が唱えていた環境問題だの男女性差問題だの部落問題だの、すべてが解決されたわけではなくても問題視されるよう議論の場・土俵に乗せるという目的はとうに達せられています。
ベ平連の「市民運動」が、現代のイラク問題にあてはまらないのが、反戦・解放の先にあるもの(ソ連の不在)がベトナムの頃とは異なっているというのも、首肯できます。
後半は、中核派や革マルの対立についてページを割いています。私の大阪市大在学中は、まだ中核の名残が残っていて、バリストや授業中の演説乱入などで活動している様子は窺えました。学生運動を傍観できる点で楽しむことさえできましたが、所詮は名残。150ページをその対立に費やされても、同時代でなければ理解は困難です。せいぜいが「石川事件」は最初、運動として盛り上がりに欠けていたという挿話は新鮮だった、といったところ。

結局のところ、タイトルの「1968年」にこだわった構成ではないのでした。68年を象徴的に捉え、その前後の世相を論じた本、といえるかと。

図書館で借りました
by top_of_kaisya | 2006-11-04 23:45 | 読/見/観