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【読後感】 資本主義はなぜ自壊したのか

資本主義はなぜ自壊したのか
  「日本」再生への提言
  中谷 巌 / 集英社

経済学部で学生時代を過ごした者として、経済学の先生が経済について語っている本は忌避すべきもの。経営者になって、経営を語る輩の著書を忌み嫌うのとはまた別の気分で。でもたまにこうして手にとってみれば、懐かしさも。
本書は、新自由主義の片棒を担いだ学者が転向を吐露した本ということで、発売当初は話題になりました。そのため図書館の順番が9ヶ月待ち。今も80名近い方が、返却を待っています。
順番待ちの方には、楽しみにお待ち頂きたい。涙なくして370頁は読み切れません。宗旨替え学者の、哀れな末路を堪能しましょう。

とあるサイトより借用テレビのニュース番組、例えば古舘某なんかは、ちょくちょく首相を番組に呼びつけては面前で苦言を呈します。そのくせ、立ち位置は庶民(視聴者)。なので「どうしたら国民の思いが伝わるのでしょうか」みたいなことを、カメラ目線で訴えかけます。庶民は、選挙でもなければ首相を見かける機会はありません。問題点を把握しているなら、そのまま詰め寄ればいい。それでこそ国民の知る権利、公共の電波を借りた国民の代弁者たるテレビの役割。
新聞も同様ですね。記者は毎日のように首相にぶら下がってます。うまく取り込めば、一緒にお酒も飲ませてもらえます。でも、たとえば朝日新聞の社説では「国民の声が届いていない」みたいなことを書きます。それほどベッタリくっついてんだったら、お前がその声を届けろよ。

札幌市民の私は、札幌市長と会うことすらそうそうありません。市発注業務のおかしな点を指摘しようにも、私ひとりが市役所にのこのこ行ったところで、会ってもらえません。市内測量業100社を束ねる測友会の会長はよく言います。「団体の声だから、市役所も聞いてくれる」。その会長が入札の問題点を挙げた「市長要望」を持参しても、市長は逃げて出てきません。タウントークと称した「おままごと」には一生懸命なのにね。
その点だけでも、メディアには特権が与えられています。

斯くもメディアというのは、権力に近いくせに嘆いてばかり。
著者も同様。新自由主義を時の政権にご進講し、己の学説を具現化。学者冥利に尽きます。ところが同じ御用学者・竹中平蔵にせり負けるや、今までの政策は間違ってました。ごめんなさい。
本当に申し訳なく思っているのなら、直接官邸で講義しろよ。
本書では”我々は日本のよさを思い出すときに来ているのではなかろうか”といった表現が散見されます。先生の反省に生徒を巻き込まないでよ。新自由主義で日本が良くなると教えたのは先生なんだから。

そんな懺悔の書ですが、申し開きの奥が深い。なにせ縄文・弥生の賞賛、日本の神話まで持ち出しての米国批判。お詫びのしるしに靴まで舐めます、か。

共同より借用大阪の放火事件が起きるまで「個室ビデオ」の存在を知らなかったんだって。
仕事が忙しくて都市部になかなか出られない農家ならまだしも、都内を走り回っているのに繁華街の風景を見たことがない、と。この告白が、もしかすると本書でもっとも衝撃的な場面かも。こんな世間知らずの学者が、これからはグローバルの時代だといって格差を拡大させてきたわけです。

本書、末尾に書き下ろしの旨が書かれています。
ならば冒頭には「私の不勉強により、尊い生命を投げ出された多くの日本人に、お詫びと共に捧げます」の一文があってもいい。自殺防止週間に読むにはうってつけの1冊。図書館で借りました
 
by top_of_kaisya | 2009-09-13 23:59 | 読/見/観