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【読後感】 <在日>という生き方

<在日>という生き方 ― 差異と平等のジレンマ
 朴 一 / / 講談社選書メチエ

朴先生については「在日コリアン」ってなんでんねん?でも触れていますが、教養のとき、先生の「民族問題論」を履修しました。本書によると、私の卒業後、「エスニック・スタディ」にタイトルを変更したところ履修生が6倍になったそうです。

本書は在日コリアンが日本社会でいかに生き辛いかを切々と語っています。そのモデルとして力道山、新井将敬、孫正義らが取り上げられます。在日という切口では、確かに彼らの苦悩は理解できます。が、力道山は相撲界の過渡期で人種差別のみで苦渋を味わったわけではない点、新井代議士については落としいれられる政界の恐ろしさ、孫社長は勝ち組ベンチャーの事例としてそれぞれ読めてしまいます。またその方に興味がひかれてしまうため、在日という側面が薄れてしまうのが、朴先生の目論見から外れてしまい、気の毒に思えます。それほど読み物として面白いということで。

とりわけ力道山については北朝鮮の統一新報を比較対象の文献として引き合いに出しています。「金日成将軍が導く社会主義祖国だけが真に自分の運命をかけるにたる懐であるとの確信を深くした」なんて典型的な表現だけでも怪しさにあふれています。そんなわかりやすい構図ですから、虚構の力道山伝説の洗い出しになってしまって、三丁目の夕日も直視できません。

その力道山。統一新報では「強制連行」で日本に連れて来られたことになっています。が、史実をひとつひとつひもといてその矛盾を指摘。最後には複数の関係者からの、力道山本人が進んで力士になりたがって日本に来たとの話で結んでいます。
奇しくも現在、米国では従軍慰安婦問題を煽っているところ。一般紙は軒並み安倍総理のコメントを批判的に書いていますが、産経のみが根本に立ち返って論評しています。

本書では最後の最後に注釈として「京城」「渡鮮」「第三国人」は引用文献を”断腸の思いで”そのまま用いたとしています。3つとも力道山の話で出てくる単語です。本書はあくまでも在日コリアンが差別を受けている観点で描かれているので、仕方ない面はあります。ただ「渡鮮」の前後に渡米や渡日が出ているのだから、それを差別的に扱わなければ現代の若者は何故差別用語なのかわからないくらいのものです。これは著者も教育問題で、過剰に在日コリアンの被差別点を挙げると逆に日本人も在日も身構えてしまうようになるのではと危惧しているとおり。

「第三国人」も石原都知事が持ち出したのでにわかに知名度が上がりましたが、これとて若者には由来さえわかりません。また、敗戦直後には石原都知事が「在日のひとたちが自分たちで称していた」というのと同様の話が引用文献として本書に登場します。

在日コリアンが韓国でビジネスに乗り出して失敗したり、ロッテのように成功したりという話は興味深く、先述の孫社長の話も含めれば一種のビジネス書として成り立つ1冊です。

図書館で借りました
by top_of_kaisya | 2007-03-10 21:18 | 読/見/観