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【読後感】 <お茶>はなぜ女のものになったか

<お茶>はなぜ女のものになったか ― 茶道から見る戦後の家族
加藤 恵津子 / 紀伊國屋書店

単なる茶道及び茶道史にまつわる本ではありません。著者は人類学者、本書は学位論文を和訳したものの抜粋で構成されています。したがって時折、茶道関連図書には似つかわしくない海外の人文科学研究者の論文引用が登場します。

茶道といえば「一期一会」ですが、これにこだわらないことは最初に宣言されています。稽古に通うひとを「茶道修練者」と表記するなど、一般的な茶道案内書とは一線を画しています。私は数寄者の端くれとして30年近く経ちますが、共鳴できる点は多々あります。著者自身が実際に稽古に通い、社中の活動に合わせ、さらに個人教授からカルチャーセンターまで幅広く携わり、「修練者」に聞き取りをしたことで、現代の茶道観が的確に捉えられています。

茶道を海外に紹介するようなわかりやすさはありません。しかし日本人ならわかるであろうところが大半です。ananMOREなどで時たま「簡単茶道講座」みたいなものが1ページ程度にまとめられていることがあります。そのくらいの付け焼刃なら、この本1冊、主要箇所を抜粋する方がわかりやすく、興味もわくことでしょう。

ところで肝心の「なぜ女のものになったか」。周知のとおり元々は武士・町人の男性の嗜むものでした。戦前の旦那衆も、芸事のひとつはできないと、との意識から茶の湯に関心を持っていたといいます。戦後の財閥解体により、そうした関心がビジネス本位に移行し、経済的に利益を生み出さない茶道への関心が急速に薄れていきました。
明治維新で打撃を受けたのが、茶の湯の家元です。それまで大名につかえることが仕事だったのに、大名が消えてしまったものですから、突如貧窮状態に陥りました。
男性修練者の減少と反比例して女性が増えた要因のひとつが、女学校の授業に取り入れられた作法の時間。茶道を学ぶことでこれを補ったといいます。
戦後は、日本の西洋化に対して、唯一日本文化を守るのが茶道である、なぜなら茶道は日本文化様式のすべてを取り入れた「総合文化」だから、というキャンペーンが見事に当たりました。また、かつて学校で習った茶道を、子育てが終ってからもう一度やりたいという女性が増え、さらにイメージとしての「花嫁修業」が世間に浸透することで若い女性も稽古に通うようになる。その繰り返しで女性が圧倒的に茶道修練者の占める割合を増やしてしまったとのことです。

男性修練者についての言及が少ないのは残念です。最後にはジェンダー的視点が見え隠れしたのも。男性修練者側の言い分も厚くするとますます面白いことでしょう。

図書館で借りました
by top_of_kaisya | 2006-12-17 15:57 | 読/見/観