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ヨコハマメリー


ひとつ(ひとり)の対象を掘り下げるべく、周辺の人々から話を聞き取り、そのもの(ひと)を浮き彫りにさせる作品。最近観たなかでは「インサイド・ディープ・スロート」があります。西洋ポルノの先駆けと比較はできませませんが、「ヨコハマメリー」の作り方は丁寧なものでした。都市伝説としてのメリーさんを前面に出してくると思いきや、周囲の優しいひとびとの思いやりで人間味が増します。聞き取りをしたなかの3名が、作品完成直後に亡くなってしまったことからも、「ヨコハマメリー」を作るギリギリのタイミングだったといえるでしょう。

横浜といえば、最初の会社をやめた後、半年間だけですが、関内で働いていたことがあります。伊勢崎町も近いので、ところどころ見た覚えのある風景も映し出されました。西洋的な華やかさや中華街の賑わいの陰で、黄金町のような淫猥さがあって、その陰の範疇に存在していた方が華やかになった現代に取り残されたのが「メリーさん」という印象を受けます。

上映最後に「不適切な表現」についてのことわりが出ました。終戦直後にはそうした単語は当たり前に使われていたということで、これも生々しさを増幅させます。が、一方ではこの単語を使うこのひとたちは、カメラの前で自然に発せられました。つまり現代でもなお、日常生活では「使うべきではない」言葉であっても、それを指すのに他の単語では代用できないといえます。
「障害者」を「障がい者」と表記する動きを行政でよく見ます。偽善とまでは言いませんが、言い回しや表記をいくら替えたからといって、本質は変わりません。「ヨコハマメリー」に登場する年配のみなさんが発する言葉は、現代では明らかに差別用語として扱われます。が、彼らには悪気はまったく無く、それどころか愛着・愛情すら感じさせられます。

シアターキノにて(日曜レイトショーで千円)
■ 公式サイトはこちら
 
by top_of_kaisya | 2006-07-02 22:30 | 読/見/観