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【読後感】 被差別の食卓

被差別の食卓 上原 善広 / 新潮新書

日本だけでなく、世界中に人種的・階級的な差別を歴史的に受けてきた人々が存在します。そうした人々は、全般的に貧しく、食事も上級階級の人々が食べない部位で腹を満たすことになります。上級階級が口にしないような美味しくない、食べづらいものをいかに口当たりよく食べるか。そうした工夫が、階級社会の感覚が希薄になった今日、ソウルフードとして、階級を超えて親しまれるようになりました。フライドチキンなどがその好例です。

これは同書で初めて知りました。

そんな食べ物を切口に被差別社会の辛さをレポートしようという取り組み姿勢に関心を持って読んでみました。著者は私よりも若い方で、だからというわけでもないのでしょうが文章の粗さが目につきます。食べ物のレポートは、テレビのグルメ情報も同様ですが、実際に味わったり香りを嗅いだりできない分、伝わりづらいものです。辺見庸氏の「もの食う人びと」はさすがによく伝わってきた記憶があります。

先日読んだ「被差別部落のわが半生」もそうですが、解放運動がここまで発展してしまうと、伝え方もより工夫をしないことには読者はつかめません。その点、「食べ物」を通じて「世界」の被差別民の目を通じて差別を考える同書の切口は、若い著者ならではの感覚といえましょう。ハリネズミを食べるブルガリアの被差別民など、著者が実際に食べに行ったことはもとよりよく調べたものだなぁ、と感心させられました。味は伝わらなくとも、世界の被差別部落を一周してきたような感覚になれます。
 
by top_of_kaisya | 2005-08-21 17:51 | 読/見/観